親の形質をその子孫に伝えるという、遺伝システムを支えるために、細胞の中に用意されているもの。遺伝のことは古くから研究されていたが、DNAこそが遺伝子の化学的本体であるらしいとわかったのは1940年代に入ってから、とわりと最近のこと。
デオキシリボ核酸(Deoxyribonucleic acid)。細胞の核の内部にある物質で、1869年にミーシャーによって発見された。遺伝子の正体であり、また生物の情報を記した設計図でもある。
1953年ワトソンとクリックが発表した、二重螺旋型の分子構造モデルはとても有名。自分をコピーしたり、損傷を修理したり、使いたい時に使いたい場所を取りだしてタンパク質を作ったりできるような、イイ感じの構造になっている。DNAの情報はA(adenine:アデニン)、T(thymine:チミン)、G(guanine:グアニン)、C(cytosine:シトシン)の4種類の組み合わせコードで記録されている。
一つの細胞に入っているDNA全て(ただし、プラスミド、プロファージ、プロウイルス、細胞小器官のDNAは除く)の持つ情報をひとまとめにして、ゲノムと呼んでいる。人間のゲノムは「ヒトゲノム」。最近よく聞かれるようになった言葉。
「ヒトゲノム計画(The Human Genome Project)」は人間のゲノム、つまり全てのDNAコードを解析しようというプロジェクト。医療、医学、また情報科学などへの貢献が期待されている。2003年になってヒトの全DNA地図が完成した。
細胞内、細胞質の中にある小器官(Organella)。真核生物でみられる。原核生物(細菌類や藍藻類など)の細胞には存在しない。酸素を消費して、糖質や脂質からATP(Adenosine Triphosphate:アデノシン3リン酸)という形でエネルギーを生み出すという大事なお仕事がある。いわば細胞のエネルギー工場。
ごく短いながらも核とは違う独自の遺伝子を持つことから、大昔に取り込まれた、または寄生した別の生物ではないかという説がある。
今のところ、ミトコンドリアは核のためにせっせと働いているだけのように見えるが、この主従関係が覆されたら…というのがParasite Eveシリーズの物語のキモ。詳しくは原作小説を読もう。スゴイから。
大昔にアフリカにいたという、現在の人類共通のご先祖様。もちろん、これが「パラサイト・イヴ」タイトルの由来だろう。
受精卵には両親の核の遺伝子が半分ずつ持ち込まれるが、同時にミトコンドリアの遺伝子もまた受け継がれる。ただし、子孫に受け継がれるのは卵のミトコンドリアDNAだけ、すなわち母親からのみしか遺伝しないと言われている。
これが本当なら、各人種の女性のミトコンドリアDNAの類似性を調べることで、人類共通の祖先に行き着く。1987年、カリフォルニア大学のアラン・ウィルソンらが分析した。結果、20万年ほど昔のアフリカに人類の祖先が暮らしていたのではないかと言われており、擬人化して「アフリカのイヴ」「ミトコンドリア・イヴ」などと呼ぶ。
同じ遺伝子組成を持つ細胞群、あるいは個体群のこと。
PE2本編ほか多くのフィクションで登場するのは「遺伝的に同じ個体(の人間)」の意味のクローン。もちろん、環境の違いによる影響などのために、全く同じ人間になるわけではない。
植物のクローンはわりと簡単に作ることができる。植物は身体の一部の細胞からでも個体全体を発生させることができるから(全能性と呼ばれる)。一方、動物のクローンを人為的に作り出すのはちょっと大変。2通りの方法がある。
突然変異。何らかの原因でDNAが恒久的に変化してしまうこと。
細胞が増えるとき、また子孫に引き継がれるとき、DNAはその内容を正確にコピーするよう作られてはいるが、さまざまな原因でそれに失敗して、DNAの一部が削れたり、増えたり、入れ替わったりすることがある。