Biology : キーワード 2

パラサイト
Parasite

 (もはや書くまでもないけれど)寄生、または寄生体のこと。
 宿主の栄養をパクるもの、繁殖の場所として利用するもの、はては宿主の行動を支配してしまうものまで、生き物の世界にはさまざまな形の寄生がある。


共生
Symbiosis

 寄生されることで、宿主と寄生体の両方が得をするような関係を保ったり、どちらが寄生しているのやら分からなくなるような関係になることも、生き物の世界では良くあること。寄生ではなんとなく言葉が悪いので、これを共生と呼んだりする。
 前作PE1で、アヤの細胞内のネオ・ミトコンドリアは核を支配せず、共生するという生存戦略を選んだ。


メタボリズム
Metabolism

 新陳代謝のこと。
 忙しく生きている人でも、ぼーっと暮らしている人でも、その身体の中では古い細胞が死んだり、細胞分裂して新たに増えたりして、常に、休みなしに新しいものに入れかわっている。ただし、神経細胞や心筋細胞、眼のレンズ細胞は新陳代謝しない。これらを非再生細胞と呼ぶ。最近では、神経細胞は全く増えないわけではない、ということが分かってきているらしい。


ネクローシス
Necrosis

 細胞の事故死。熱や傷、毒、飢えなどの外的環境変化が原因で細胞がお亡くなりになること。日本語では「壊死(えし)」。アポトーシスと違い、細胞の中身をまわりにブチまけてしまうので、炎症を起こすなど、周囲の組織に影響が出てしまう。


アポトーシス
Apoptosis

 細胞の自殺。遺伝子によってコントロールされる「プログラム死」のこと。
 オタマジャクシのしっぽが消えたり、人間の手ができる時に指の間の細胞が消える、などという個体形成や、細胞数の制限もこの機能による。また、活性酸素などによってDNAに傷がつき、しかもそれが修復できそうに無いとなったときにもアポトーシスが起こり、損傷DNAを細胞ごと始末してしまう。このとき、細胞を断片化するなどして、ネクローシスのように周囲の組織に迷惑がかからない仕掛けになっている。
 身体の老化は、アポトーシスによって体細胞の数が減っていくことで起こっている。


アポビオーシス
Apobiosis

 アポトーシス同様、細胞の「プログラム死」だが、非再生系の細胞、すなわち一度生まれると二度と新陳代謝しない細胞(心筋細胞や神経細胞など)の死をこう呼んで区別する。比較的新しい概念。
 これらの細胞は個体の生存に不可欠、しかも失ったらもう手に入らない重要なパーツだから、アポビオーシスは個体の死に直結する。個体の寿命に関係することから「寿死」と呼ばれる。普通のアポトーシスとは、はたらくメカニズムも違うらしい。


テロメア
Telomere

 真核生物の染色体の両端にあるコード「TTAGGG(哺乳類の場合)」の繰り返し部分。遺伝には関与しない。
 普通、体細胞は有限回数しか分裂することができない(ヘイフリックの限界)が、自分があと何度分裂できるかを決めているのがこの部分だと考えられている。いわば細胞の寿命を決める、時限装置のようなもの。
 細胞が分裂するとき、染色体もまた2つにコピーされる。だが、テロメアは完全にはコピーされず、「TTAGGG」繰り返しの数が減って短くなる。細胞分裂を何度も繰り返してテロメアがあまりに短くなると、細胞はそれ以上の分裂をやめてしまう。
 ちなみに、大腸菌など原核生物にはもともとテロメアは無い。DNAがリング状になっていて、末端が無いから。そのため、外部の条件さえ良ければ何度でも分裂して増えることができる。


テロメラーゼ
Teromerase

 酵素の一種で、『老化時計』テロメアの長さを延長する機能がある。ただし、幹細胞(役割が決まる前の細胞)以外の大人の細胞ではこの機能は働かない。
 テロメラーゼは精子や卵といった生殖細胞が作られるときにのみ働く。テロメアを延ばしたDNAを子孫に受け渡すためだ。
 初のクローン羊「ドリー」は6歳の羊の乳腺細胞、つまりテロメラーゼの働いていない細胞から生まれたため、既に2割ほど短くなったテロメアしか持っていなかったという。また、癌細胞でもテロメラーゼは働いている。癌細胞が節操なく増殖するのはこのため。
 テロメラーゼは分子の中に「CAAUCCCAAUC」という配列を持つRNAを持つ。CはG、AはT、UはAに対応するから、対を成す配列は「GTTAGGGTTAG」。この鋳型RNAをもとにしてテロメアの繰り返しDNAコード「TTAGGG」が合成される。


テロメラーゼ活性
Activation of Teromerase

 普通は働かないテロメラーゼを、再び活性化することができれば、短くなったテロメアを再び延長して、老化を止めることができるかも、という考えがある。
 実際に、テキサス大学のジェリー・シェイ博士はこの方法でヒトの細胞の延命(それも何倍も)に成功した。ただ、老化のシステムはなかなか複雑らしく、PE2の物語のようにヒトの「不老不死」や「若返り」が実現するかどうかは分からない。
 シェイ博士は、ヒトの寿命を大幅に延ばすことは無理だろうけれど『人生最後の40〜50年間を、若いときと同じように健康に過ごすことができれば』と期待しているという。


命の蝋燭
Candle of life

 物語終盤、イヴの結界によって黒焦げになったゴーレム兵を見たアヤの台詞から。細胞内の『老化時計』テロメアの比喩としてもよく使われる。

 「どうだ!」と、死神が声をかけました、「これは、人間どもの生命の燈火だ。大きいのは子どもので、中ぐらいのは血気さかんな夫婦のもの、小さいやつは、じいさん、ばあさんのだ。と言っても、子どもや若い者でも、ちいっぽけなあかりしきゃもってないのが、よくある」
 「わたしの命のあかりを見せてくださいな」
 じぶんのはまだまだ大分大きいだろうと思って、お医者がこう言うと、死神は、いまにも消えそうな、ちいっぽけな蝋燭の燃えのこりをゆびさして、
 「見なさい、これだよ」と言いました。

「死神の名づけ親(第一話)」(『完訳 グリム童話集(二)』 金田鬼一 訳/岩波文庫)より。


ネオテニー
Neoteny

 幼形成熟。子どもの姿のままで成長し、繁殖できるような状態になること。アホロートル(axolotl:ウーパールーパーの商品名で有名になったサンショウウオ)などはネオテニーする動物として有名。
 頭蓋骨の形から推測して、ヒトはサルのネオテニー、子どものまま成長が止まった状態から進化したのではないかという説があるそうだ。


ベクター
Vector

 「媒介するもの」という意味。細胞に遺伝子を人為的に組み込むとき、ウィルスなどをベクター、「運び屋」として利用する方法がよく使われる。
 どういう関係があるのか、数学の「ベクトル」と全く同じ綴りだ。



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